同明会能

第68回 同明会能 【解説】

今回の番組は~音色と楽器と神様と~をテーマに、「音」にちなんだ曲を選びました。

様々な音色をお楽しみください。

源太夫 楽拍子(げんだゆう がくびょうし) “太鼓”

勅使が熱田神宮に参詣すると、源太夫の神が現れ太鼓を打ち、「楽」を舞い、囃子の徳を讃えます。荘厳な神代の昔が感じられる重厚な曲です。

源太夫の神は、天の岩戸の前で太鼓を打った神です。言うなれば囃子の祖であり、古来囃子方が崇敬してきました。尚、本来源太夫の神は、日本武尊の妻の父で尾張の祖「乎止與命(おとよのみこと)」ですが、この曲では素戔嗚尊の妻の父「脚摩乳命(あしなづちのみこと)」と設定し、熱田と出雲は同一体であるとしています。

楽拍子は「楽」の前より太鼓が手を打ち、シテの拍子と相まって「楽」の面白さを引き立てます。

 

独鼓 絃上 (どっこ けんじょう) “琵琶”

独鼓とは、能の一節を謡一人と太鼓が一対一で演奏します。

一調のような複雑さではないものの、通常の能とは異なる華やかな手を打ちます。

琵琶の名手、藤原師長は奥義を極めようと、入唐渡天を志しましたが、伝説の琵琶の名手村上天皇の霊により、思い留められ、名器獅子丸を賜り都へと帰ります。極々短い演奏ですが、太鼓ならではの軽やかなリズムが清々しい佳曲です。

 

松虫 勧盃之舞(まつむし かんぱいのまい) “虫の声”

所は難波阿倍野。かつて、この原で一人の男が松虫の鳴く音にひかれ草の中に入ったまま帰らぬ人となり、その親友もあとを追って自害したといいます。

還らぬ友をまつ男の霊は、深く結ばれた友への思いを語り、酒に戯れ舞を舞います。やがて夜は明け、ただ虫の声だけが残るのでした。

様々な虫の響きが市井の喧噪と重なり、独り友を待つ男の心淋しさを際立てます。

勧盃之舞は舞前にワキに酌をする方が入り、「黄鐘早舞」のヲロシが無くなり、緩急無く、最後に流シが挿入されます。舞全体をアップテンポに囃すことで、この曲の「文無き能」(位の無い能の意)を表します。

 

一調一声 小督 (いっちょういっせい こごう) “琴”

一調は謡一人と小鼓もしくは大鼓が一人が一対一で演奏します。さらに一声と言う通常は笛、小鼓、大鼓で演奏されるシテ登場の囃子の独奏が加わります。短いながらも、能を一番観たのと同じ満足感(密度)が得られるような 演奏が必要といわれ、通常の演奏とは異なり複雑で華やかな手(リズム)を打ちます。技を極めた者にのみに演奏が許される、とても位の高い上演形態です。

高倉院の宣旨を受け、中秋の嵯峨野へ馬を走らせる源仲国が、ただ片折り戸のみをたよりに、小督局を探し訪ねます。一声の独奏で描き出される秋の嵯峨野の風情、駒の足音、澄み渡る空、名月、琴の音。情緒ゆたかに秋の夜を奏でます。

 

「吉野琴」(よしのごと) “琴”

春爛漫の吉野を訪ねた紀貫之の前に、琴を抱えた里女が現れます。里女は、古に天女が舞ったという五節の舞の起源を語り、ほどなく自分がその化身であることを明かします。そして内裏一の琴の名手である貫之に琴を与え、天に上ります。その夜、再び現れた天女は、天上の音楽と貫之の弾く地上の琴の奏楽とが響き合う中、舞を舞い、やがて明け行く空に消えていきます。

本曲は、平成二十六年に京都観世会によって復曲されました。復曲に際し、天女の舞う【天女之舞】は笛の譜、大小太鼓の手に工夫を凝らし作調されました。

 

「自然居士」(じねんこじ) “簓”

自然居士は、東山・雲居寺で説法や芸能に携わる少年僧。親の供養にと我が身を売って衣を差し出した少女を人商人にから救うべく琵琶湖畔まで追いかけます。 少女を返そうとしない人商人の言われるままに、自然居士は芸を尽くします。舞囃子では、船と簓(竹を束ねた楽器)の起源を説く「クセ」「簓ノ段」、腰につけた羯鼓を打ちながら舞う「羯鼓」と見どころが続き、無事、少女を救い出します。

 

「砧」(きぬた) “砧”

訴訟のために上京した夫は三年たった秋になっても、帰ってきません。夫の帰国を待ち望む妻は、せめて音だけでも都へ届けと、夫への思いを胸に砧を打ちます。(砧とは洗濯物の皺を伸ばすための道具です。)

待ち侘びる気持ち、無事を祈る気持ち、帰ってこないことへの恨みなど、複雑な思いを身の内に抱えながら打つ砧の音が晩秋の夜半に響きます。蘇武の故事を交えた詩情豊かな情景を味わうことのできる名曲です。

 

「小鍛冶 白頭」(こかじ しろがしら) “鎚の音”

霊夢を見た帝は、勅使を使わし、三条小鍛冶宗近に剣を打つように命じます。宗近は、優れた技量を持つ相槌の打ち手がおらず困り果て、氏神である稲荷明神に祈請します。

宗近の祈請が通じ、稲荷明神が狐の精霊となり現れて宗近の相槌を勤め、無事に剣を鍛え上げます。表には「小鍛冶宗近」、裏には「小狐」と二つの銘を打った名剣「小狐丸」を勅使に捧げたあと、稲荷明神は雲に乗り稲荷山に去っていくのでした。

【白頭】では稲荷明神の神威が常より増し、より激しい動き、囃子となります。槌を打つ所作と囃子の手組がシンクロする場面もあり、楽しく爽やかな曲です。

 

「経政」烏手 (つねまさ からすで) “琵琶”

琵琶の名手でもあった平家の公達経政(史実では経正と表記)は、源氏との合戦に先立ち、慣れ親しんだ琵琶・青山(せいざん)を仁和寺の僧都行慶に託しました。経政が一ノ谷で討たれたと知った行慶は、青山を仏前に供え弔いを始めます。そこへ経政の霊が灯火の明かりの中に幻の如く現れます。小書「烏手」は、琵琶の譜を模して笛が一管で奏するもので、経政は琵琶の音に聴き入り往時へと想いを巡らします。経政と行慶は言葉を交わし合い、夜遊のひと時を過ごしますが、やがて修羅道の責めに苦しむ姿を見られまいと、経政は灯火を吹き消して姿を消します。 喜多流と森田流のみに伝わる特殊演出をお楽しみください。

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